Report | 2024.03.18 up
第13回都医学研シンポジウム「From bench-to-bed sideの新たな展開~ALS診療ガイドライン2023を踏まえて~」を開催しました。
10月28日(土曜日)、「From bench-to-bed sideの新たな展開~ALS診療ガイドライン2023を踏まえて~」と題して、第13回都医学研シンポジウムを開催しました。今回は、ALSに関する基礎研究の最新情報及びALSの臨床研究と新たな介入・治療法をご紹介しました。ALSは、全身の筋萎縮と筋力低下を特徴とする進行性の神経変性疾患で、孤発性患者の殆どの脳・脊髄病巣に核タンパク質の一種であるTDP-43が蓄積しています。長年、ALSは、治療法のない疾患とされてきましたが、分子生物学やゲノム研究等の進展、治療介入技術の進歩により治療開発が進み、現在、神経変性疾患の中で研究が盛んな疾患の一つとなっています。
前半の基礎研究の最新情報では、まず、当研究所の長谷川 成人プロジェクトリーダーから、2006年と2008年に、ALSや前頭側頭葉変性症(FTLD)の患者脳等にTDP-43の異常病変が蓄積していることを明らかにし、最近では、ALSやFTLDの患者脳に蓄積するTDP-43の構造解析を行った結果、それぞれの疾患で折りたたみ構造が異なっており、この違いにより異なる病態の疾患が発症することが示唆されるとお話ししました。次に、東北大学の青木正志先生から、ALSの原因遺伝子のTDP-43あるいはFUSの変異に伴う患者からのiPS細胞を使った解析や、患者iPS由来の細胞モデルによる治療薬の研究についてお話しいただきました。続いて、滋賀医科大学の漆谷 真先生から、TDP-43を凝集する病的モデルとTDP-43を特異的に認識する抗体を作製し、これらを用いてモデルマウスを作製し解析した結果、その症状は運動麻痺よりも精神症状が主となることを観察したとお話しいただきました。最後に、愛知医科大学の熱田直樹先生から、同大学が事務局を担っているJaCALS(Japanese Consortiumfor ALS Research)は、ALS患者の臨床・遺伝情報の解析を通じて病態解明と治療法の開発を目指す組織で、ALSの原因遺伝子は複数あり、それぞれの遺伝子変異を有する患者の頻度は国や民族ごとに異なるため、原因を明らかにするため解析を行っているとお話しいただきました。
後半のALSの臨床研究と新たな介入・治療法では、まず、徳島大学の和泉 唯信先生から、現在、リルゾールとエダラボンの2剤だけ保険承認されているなかで、治療薬を増やすため、高用量メチルコバラミンの有効性と安全性を検証しているとお話しいただきました。次に、東邦大学の狩野修先生から、1970年代に米国で始まった多職種の専門家の診療を受けられるALSクリニックという専門外来を同大学では2017年に開設し、リハビリテーション療法士、呼吸ケア看護師、栄養士等、多職種の専門家が同時に対応したり、カンファレンスで患者の課題を多職種で解決を目指すことで、予定外入院の減少効果があったことを報告いただきました。続いて、都立神経病院の清水俊夫先生から、ALSでは初期から体重減少がありますが、骨格筋量の減少や嚥下障害による食事量の低下は生命予後と関連しています。診断後のBMIの増加は生命予後の改善と関連するという報告もあり、診断時からの栄養介入の重要性が示唆されているとお話しいただきました。最後に、当研究所の中山優季ユニットリーダーから、ALSは、事例ごとのフィールドワークやその蓄積により、ケアを築き上げてきたこと、そして、気管切開式人工呼吸(TIV)者の追跡調査から、TIV導入までの体重減少が大きいほどその後の進行も早いことがわかり、これらの知見はALS診療ガイドライン2023において引用されることになったことを報告しました。
出典:東京都医学総合研究所